おそろしや、地酒妖怪図鑑

2006/10/18

地酒妖怪図鑑(その20)

お気に入りの居酒屋で時を過ごすのは、地酒ファンにとってかけがえの無い至福の時だ。
おいしい酒に絶品の肴。日本人に生まれた幸せをかみしめる瞬間である。
杯を重ね、満腹にもなって「そろそろ帰ろうかな。」と思い始めた時、こんな声が聞こえて来る事はないだろうか。

「もう一杯・・。」

「もう一杯だけ・・・。」

「もう一杯だけ。」

もしもそんな声が聞こえて来たら・・・
妖怪「もう一杯茸(だけ)」の仕業だ。

「もう一杯茸」は飲み終わろうとする酔っぱらいを見つけるとやって来る。
テーブルの上に、どこからともなく生えて来て、しきりに「もう一杯だけ。」と囁きかけるのだ。しかも目立たないようにお猪口の形をしているからやっかいだ。
その声を、自分の心の声と勘違いした酔っぱらいは次々と“もう一杯”を注文してしまう。
そんな事が5杯ほど続いたら、完全に「もう一杯茸」にやられてしまう。
翌日はひどい二日酔いを覚悟しよう。
「もう一杯茸」は、幸せな酔漢に度を超えた酒を飲ませる事を楽しんでいる悪戯な妖怪なのである。

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以前紹介した「後引き爺」とペアで出現したら、翌日は仕事にならない事請け合いである。

【もう一杯茸(だけ)】
生息場所:帰ろうとする酔客のテーブル。
撃退方法:自分の酔った状態を冷静に判断する事だ。ただし、酔っていると冷静になれないのがやっかいである。

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2006/09/13

地酒妖怪図鑑(その19)

あなたの身の回りにこういう年配の方はいないだろうか。
基本的に酒が好きなのだが、健康に不安を感じている。
現に定期的な健康診断の数値に問題を抱えていて、好き勝手に酒を飲むわけにいかない体になっている。

そして、そんな人がこう言い出していないだろうか。
曰く、「焼酎は良い、最近飲むのは焼酎だけだ。」
「焼酎は日本酒より体に良い。」
「焼酎は翌朝がラクだ。」
そんな人を見かけたら・・・

妖怪「焼酎だまし」の仕業だ。

焼酎だましは健康に不安を抱えた年配の酒好きを見つけるとやって来て、盛んに耳元で焼酎の良さを喧伝する。
不安に駆られた酒好きが焼酎を飲むと、肩に乗った焼酎だましが旨味成分を吸い取ってしまう。
酒飲みは味に不満を感じてはいるのだが、健康不安から自分を暗示にかけてしまい、これは健康に良いのだ、正しいのだと無理に自分を納得させる。
焼酎だましに取り憑かれている人の言動を注意して聞いてみると、盛んに焼酎の利点を述べ立てるが、味に関する事が抜け落ちているのだ。

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【焼酎だまし】
生息場所:健康不安を持つ酒好きの心の内。
撃退方法:大概の場合、どんな酒も適量を守れば健康を害さないのだから、自制心を持って自分の好きな酒を飲もう。

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2006/08/07

地酒妖怪図鑑(その18)

一日の仕事を終えて、夕刻に美酒にありつく瞬間は、酒飲みにとって何物にも代え難い喜びの時間だ。
香気、旨味ともに優れた銘酒を味わう時、日本人に生まれた喜びに五感は打ち震えるだろう。
一杯目、二杯目・・・幸せな時間は続く。
三杯目、四杯目・・・このあたりで、あたなはおかしいと思った事はないだろうか?
初めに感じた旨味が、感じられなくなっているのだ。
杯を重ねるにしたがって、たしかに酔ってはいる。
しかし、それはアルコールを摂取しているだけで、肝心の銘酒の旨味がどこにも感じられない。
そんな経験をしていたら・・・。

妖怪「旨味さらい」の仕業だ。

「旨味さらい」は、酒の旨味成分が大好きで、旨酒を飲んでいる人が居るとやって来て、酔って来た頃を見計らい、そっと旨味だけを抜きさって行く。
多くの場合、人はそれを酔ったせいとして納得させているので、ますます「旨味さらい」がつけあがるのだ。

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【旨味さらい】
生息場所:旨い酒のある所は、常に「旨味さらい」に狙われていると言って良いだろう。
撃退方法:「旨味さらい」につけ込まれないよう、適量を守るか、もの凄く酒に強くなるしかないだろう。

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2006/07/28

地酒妖怪図鑑(その17)

地酒ファンにとって、雑誌などで専門家から絶賛されている希少な酒は、是非とも味わってみたいものだろう。
大概の場合、そういった酒は生産石数も少ない為、取り扱い酒販店を訪れても先約で完売してしまい、売ってもらえない事が多い。
そこで、どうしても覗いてみるのがインターネットのオークションである。
そこに掲載されている、市価の数倍もする憧れの酒を注文したくなってしまったら・・・。

妖怪「不戻味亜天狗(ぷれみあてんぐ)」の仕業だ。

不戻味亜天狗(ぷれみあてんぐ)は希少な酒を様々な方法で入手し、数倍の価格で転売、利益を得ようとする妖怪だ。
以前は地酒を専門としないスーパーマーケット等で活躍していたが、インターネットの普及で副業的に活動をする不戻味亜天狗が出現して来た。
基本的には利用者の自由ではあるが、管理をおろそかにする不戻味亜天狗も多く、さらなる高騰を招くため、無闇に利用するのは控えたいところだ。

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【不戻味亜天狗(ぷれみあてんぐ)】
生息場所:主にインターネットの酒オークションサイト。
撃退方法:大概の酒は飲食店へ行けば味わえるのだから、無理にオークションを利用しない事だ。一度味わえば、それほどではないとわかる事が多い。

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2006/07/13

地酒妖怪図鑑(その16)

高精米率を誇る吟醸酒や、生酒などは冷蔵が必須な酒が多い(と、されている)。
このような酒のコンディション維持にはひたすら冷蔵が必要だ(と、されている)。
コンディションを崩した場合、華やかでフレッシュさに満ちた佳酒が、みるも無惨な味に変わってしまう事がある。
特に外気温が高い夏場は要注意。
酒販店から家の冷蔵庫までの移動に神経をとがらせる地酒マニアは多い。
クーラーボックスを持参したり、移動させる車の冷房をギンギンに効かせたりといった涙ぐましい努力を続ける。
家人の不注意などで酒が長時間冷蔵庫の外に出されたりしていたら大変だ。この世のものとも思えない断末魔の悲鳴を上げる事になる。

そんな風に過度に酒の冷蔵が気になっているとしたら・・・
妖怪「冷やしんぼう」の仕業だ。

「冷やしんぼう」は冷蔵にこだわる地酒マニアを見つけるとやって来て、さらに完璧な冷蔵を、さらに低温での保管をと強迫観念を植え付ける。
「冷やしんぼう」に長い事取り憑かれたマニアは、ちょっとでも味が劣化していたり、少しでも生ヒネの兆候を見つけると、その酒を受け付けられない味覚に変貌してしまうのだ。
(ちなみに筆者も以前、「冷やしんぼう」に取り憑かれていましたが、最近撃退に成功する事が出来ました・・・かな?)

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【冷やしんぼう】
生息場所:過度に冷蔵を気にする地酒マニアの心の内。
撃退方法:気にし過ぎない事が一番なのだが、人によってはそうも行かないだろう。夏場に繊細な味の生酒を味わおうと思わない事が一番か。火入れ酒を中心に選ぶのが妥当だろう。または常温保管でも問題の生じない酒を知り、その中に楽しみを見つける事である。

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2006/06/30

地酒妖怪図鑑(その15)

地酒ファンにとって、自分の好みの酒を語ったり、未経験の酒を飲んだりする事は何物にも代え難い心躍る体験である。
最近はブログ等を利用して同好の士と語り合うのが地酒ファンの新たな楽しみとなった。

しかし、ブログに記事をアップする為だけに頻繁に酒を飲むようになると問題が生じるようになる。
自分の好みはハッキリしているのに、やたらと目新しい酒を買い込んでは飲み、好みの酒と違う事に不満を持ち記事にする。

そんな記事をたくさんアップするようになったら・・・

妖怪「地酒亡者」の仕業だ。

これは新たな酒、まだ見ぬ酒と、必要もないのに酒屋めぐり・居酒屋めぐりを繰り返す内に、地酒ファンそのものが妖怪になってしまう、恐るべき現象だ。
ちなみに筆者も、よくこの妖怪に変身します(爆)。

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【地酒亡者】
生息場所:むやみに新しい酒を追い求める地酒ファンの心の内。
撃退方法:地酒界に関わる人すべてに愛情を持ち、自分の好みの外にある酒にも寛容となる事だ。ただし是は是、非は非として真っ当でない酒があれば批判するのもやむを得ないだろう。

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2006/06/26

地酒妖怪図鑑(その14)

我が家での晩酌はとてもリラックス出来る楽しい時間だ。
お気に入りの地酒が有る時はさらに格別だろう。
そんな時、ふと気が緩むのだろうか。時折酒の入ったグラスやお銚子をまるごと倒してしまう事がある。
これから飲もうと思っていた佳酒がテーブルに広がる様は、なんともやり切れない。

そんな時、ふとこぼれた酒を直接口を付けて吸ってしまいたくなる事はないだろうか?
もし、そんな強い誘惑にかられたら・・・

妖怪「酒吸い鬼」の仕業だ。

酒吸い鬼は酒のこぼれる音、なげき悲しむ地酒ファンの心の悲鳴を嗅ぎ付けるとやって来る。
そして地酒ファンに、酒を吸うように仕向けるのだ。
テーブルに口を付けたら、しめたもの。
すぐに後頭部にホース状の道具を取付けて酒のエキスを横取りしてしまう。
酒吸い鬼にエキスを吸い上げられた酒は悲しいほど旨くない。
吸ってしまった地酒ファンは、卑しい己の姿に自己嫌悪を憶える事になる。

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【酒吸い鬼】
生息場所:酒の入ったグラスや、お銚子が倒れる音がするところであれば場所は問わない。
撃退方法:うっかり倒してしまう事のないよう慎重に飲む事だ。倒してしまった場合は、酒吸い鬼にそそのかされて吸ってしまう事のないように強い自制心を持とう。

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2006/06/01

地酒妖怪図鑑(その13)

夜、帰宅してさあ晩酌という際に、酒瓶の中の酒が昨日よりも減っているような気がする事はないだろうか。
自分以外に誰も飲む人は居ない筈なのに、明らかに僅かながら減っている事があったら・・・。

妖怪「地酒わらし」の仕業だ。

地酒わらしは地酒好きの住んでいる家に住み着き、主人が昼間外出している間に現れて、長い舌を使って瓶の中の酒をすくっては飲んでしまう。
すべて飲み切ってしまうような事はないのだが、地酒好きは酒の残りに敏感だ。
僅かでも減っていると気がついて警戒心を抱く人も居る。

しかし「地酒わらし」を追い出そうとしてはいけない。
地酒わらしが居る家は、良い地酒が継続的に集まって来るからだ。
逆に地酒わらしが去ってしまうと、途端に良い酒に巡り会えなくなるのだ。

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【地酒わらし】
生息場所:地酒好きの住む家で、昼間に人が居ないならば場所は問わない。
撃退方法:地酒わらしは飲みかけの酒しか飲まないので、常に飲み切ってしまう事だ。しかし地酒わらしが去ってしまうと、地酒好きにとって悲しい末路が待っているかもしれない。

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2006/05/24

地酒妖怪図鑑(その12)

地酒に興味を持ち、調べて行く内に酒そのものの味よりもスペックに気をとられ、スペックに記載されている数字や米の名前などが酒の味を決めると思い込んでしまった事はないだろうか。

妖怪「スペック小僧」の仕業だ。

スペック小僧は地酒に興味を持ち始めた人がいるとやって来て、盛んに耳元で「スペック」「スペック」と囁き続ける。
この呪文に取り憑かれると、スペックを知らないで酒を飲む事を極端に恐れ、酒屋に行くと瓶を裏返し、スペック表示を見るようになってしまう。
スペック表示が無い酒があったら大変だ。どうにも落ち着かず、パニックを引き起こしてしまう。
味そのものが良かろうが悪かろうが、高スペックであれば安心なのだ。
早く「スペック小僧」を自分の中から追い出さないと、地酒を心と体で楽しむ事が出来なくなってしまうだろう。

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【スペック小僧】
生息場所:初心者地酒ファンの周囲
撃退方法:スペック小僧は地酒ファンにとっては麻疹のようなものだ。常に自分の舌と感覚を磨いていれば、やがて姿を現さなくなるだろう。

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2006/05/19

地酒妖怪図鑑(その11)

飲食店の棚に並んでいる入手困難な酒を見つけて注文をするのだが、店主が「これはまだ封を切れない」などと言い、もったいをつけて飲ませてくれない事がある。

妖怪「隠しん坊」の仕業だ。

「隠しん坊」は半端な知識で幻の酒を揃えたがる飲食店の店主を見つけると乗り移り、様々な銘酒を棚に並べながら客には飲ませないという悪戯を繰り返す。
熟成を考慮しているのではなく、ただただ幻の酒を店に飾りたいのだ。
あまりに客に飲ませない為、飲み頃を逸してしまい、客の不評を買う事が多い。
茶色く変色した越乃寒梅を見かけたら、「隠しん坊」の店と見て間違いない。

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【隠しん坊】
生息場所:地酒にあまり詳しくはないが、銘酒を揃えて見栄をはりたい店主のいる店。
撃退方法:単に注文をしなければ良いだろう。

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