« 地酒カルテット誕生! | トップページ | 嘉泉・純米吟醸! »

2006/03/12

名をこそ惜しめ・硫黄島 魂の記録

クリント・イーストウッドが第二次大戦の激戦地・硫黄島の物語を映画化するそうです。
日米それぞれの視点から描く二部作で、司令官の栗林中将を渡辺謙が演じるようですね。
史料を徹底的に調べるのがイーストウッド流らしいので、偏見の無い描き方をされる事を期待したいです。
そして、この映画を機に日本の多くの人にも、硫黄島戦の真実が伝わると良いと思います。

【以下、気分の悪くなる描写があります。食事中の方は読まない方がよろしいかと思います。】

津本陽氏が昨年著した「名をこそ惜しめ」
硫黄島での戦闘の様相を活写しています。

nawokosoosime 硫黄島は小笠原群島の南端近くに位置する島です。地面を掘るとすぐに有毒ガスが吹き出すような火山島で、地熱が高いため草木はあまり生えていません。
ほぼ平らな土地ゆえに滑走路を作りやすく、本土空襲の効率化を目指す米軍に狙われます。
それを察知した日本軍は、ここに約二万の兵を集結、全島を張り巡らせる地下陣地を構築して決戦に臨みます。
この地下陣地の構築が難事業でした。重機はまったく無い手掘り作業で、地熱70℃の地下を掘り進む悪環境(持っていた水筒がすぐに湯になったそうです)。ともすれば噴き出す有毒ガスによって生命の危機に瀕します。
自然の湧き水は皆無で、雨を貯めるしかない。灼熱の地下で重作業を重ねながら、水は一人一日水筒一本分のみだったそうです。
食料も充分ではなく、海水を混ぜて作る食事の為に下痢が止まらない者、風土病で倒れる者が続出。一日に十回の下痢は健常者と見なされたそうです。栄養失調となり、頭ばかりが大きい宇宙人のような体型になってしまった兵士が多かった。
米軍がやって来てからは連日続く艦砲射撃。地上の日本軍を無力化させてから上陸するつもりの米軍は、昼夜を分かたず鉄の雨を降らせ続けます。
その間、日本軍は地下陣地にひそみ、頭上で炸裂する砲弾の為にいつ天井が落ちるとも知れない恐怖と戦い続けていたのです。

米軍が上陸してからは、まさに両軍入り乱れての死闘の始まりです。
周到に構築された日本軍の陣地網が威力を発揮し、敵の死角を巧妙に突いての攻撃を繰り返します。太平洋戦争中、唯一米軍の死傷者が日本軍を上回った戦場でした。
しかし物量の圧倒的な差により、徐々に日本軍は組織的戦闘がとれなくなり、その後は凄惨なゲリラ戦です。
昼は高熱の地下陣地にひそみ(狭く高温の陣地内には死体が散乱し、糞尿もこの中でせざるを得ない)、夜は陣地を飛び出し米軍を攻撃、敵の置き忘れた食料を持ち帰る。死体が浮いた貯水場の水を汲みに行く・・・。
手を焼いた米軍は地下陣地の入口をブルドーザーで塞いで窒息させようとしたり、火炎放射器で陣地内を焼き尽くそうとする・・・。
米軍の戦車に対する肉弾攻撃は凄まじい。
戦車攻撃用の爆弾を抱えた兵士は野にちらばる死体の間に横たわり、死んている兵士の体から出ている内蔵を自分の体の上に乗せ、血を体に塗りたくります。自らを死体に偽装するのです。
米軍の戦車が間近に来たらやおら起き上がり、爆弾を抱えて飛び込む・・・。
こんなに凄惨な戦いの場所を私は知りません。
この時、硫黄島は間違いなく地獄だったと思います。
やがて栗林中将も最期の攻撃に出て戦死。
日本軍だけで全島二万人近い戦死者を数えました。

地下にひそんでいた最後の兵士が降伏したのは、終戦後二年以上経ってからです。
硫黄島には今なお、地下に一万体以上の兵士が埋まっているといわれています。
硫黄島を考える時、自然に背筋が伸びる思いをしますし、多くの日本人がこの島での戦いの実相を知らない事に強い疑問を感じるのです。

この凄惨な戦いの場で、彼等が闘志を衰えさせる事なく奮闘出来たのは何故でしょう。
それは日本人にかつてあった「名をこそ惜しめ」の精神であったのではないでしょうか。今生での生にしがみつくのではなく、名誉の為に命を捨てるという事を美徳と感じていたのです。これは戦前の軍国教育の賜物というよりは、もっと古くから伝わる日本の美意識でしょう。
これは実際に相対していた米軍兵士も感じていたところらしく、「カミカゼ・ファイター」、そして「イオウジマ・ファイター」には敵ながら畏敬の念を持っていたと聞きます。

翻って現在。毎日のニュースをにぎわせるのは“名を惜しまず”の人々。日本は嫌な国になってしまったようです。
これはもちろん、自らを含めての事ですが・・・。

|

« 地酒カルテット誕生! | トップページ | 嘉泉・純米吟醸! »

コメント

活字でも壮絶なのに、映像で観るのはちょっと怖いけど・・・ホント偏見のない視点で作ってもらいたいね。

投稿: 市っ子 | 2006/03/13 13:38

昔学校で先生が「戦争とは国と国との喧嘩である。」と言われました。
その通りだと思います。その国は人が集まって出来たもの。そして人が人を殺す非人道的行為が日常となる異常。
悲惨の一言に尽きますね。
合掌。

投稿: 桂自然 | 2006/03/13 16:42

《市っ子さん》
昨年後半に硫黄島関連の書籍を続けて読んで、深く考えさせられましたよ。
特にこれだけの戦いがほとんど知られていないって事に驚きが・・・(それまでの自分も含めて)。


《桂自然さん》
人間同士は必ずわかりあえるものの筈なのに、国というのは時に恐ろしいものに変化します。でも、その国は人間が作っているんですよね。
硫黄島では、今なお夜間に行進の音がしたり、戸を叩かれたりするそうです。
英霊たちは今もあの島で戦っているのでしょうか。

投稿: 地酒星人 | 2006/03/13 22:06

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 名をこそ惜しめ・硫黄島 魂の記録:

« 地酒カルテット誕生! | トップページ | 嘉泉・純米吟醸! »