各駅停車の旅3《夜の焼津で赤兵衛のもずく篇》
ビジネスホテルはどこも駅から近いと言いたいらしく、どう考えても徒歩7〜8分かかるところを徒歩3分と表記する。
甲府の夜は、このわかりにくいホテルの地図との格闘であった。
いさぎよく全力疾走3分!と書いて欲しい。
ようやくトホホな感じの部屋(朝食付き5000円)に落ち着き、諏訪での雨でビショ濡れになった荷物を広げて乾かす。そうこうする内に頭痛がし出す。
睡眠不足に昼酒、そして豪雨に当たっているんだから無理もないか。
持参のバファリンを飲み込み、酒も飲まずにベッドに潜り込む。
薄い壁からは隣の部屋の会話が聞こえて来る・・・。トホホ・・・。
翌朝、甲府発の身延線に乗り込み、富士を目指す。
2両編成の各駅停車、ドアは手動ボタン製である。
甲府の街を抜けてしばらく行くと、山深い山地を走るようになる。ここいらで山並みを眺めながら酒を飲もうと思い、麗人の純米大吟醸を真澄で購入した利き酒用グラスでちびちびと飲み出す。
若干の老ねを感じはするが、落ち着いた綺麗な酒。
四人がけ座席にはむろん一人だけ。足を投出しながらしばし至福のひと時。
さらに横笛の八剣を。本醸造である。
こちらは始めはハードな当たりに感じるが、徐々に甘みが勝って来る。
この辺は真澄のこのクラスの酒にも通じるものがある。あるいは諏訪の酒の共通項か。
やがて製紙工場の建ち並ぶ富士宮あたりを通り過ぎ、列車は富士市に到着。
残念ながら富士の頂は雲に隠れていた。
富士から東海道線に乗り換え、西へ。次に目指すは由比。
言わずと知れた(地酒ファンの間では)、正雪の地元である。是非、神沢川酒造場を訪れてみたいと思い、由比駅に降り立つ。
駅前でタクシーを拾い、まずは腹ごしらえと「桜えび館」へ。
ここで生桜えびと、かき揚げせいろを注文。地元の正雪や英君も飲めるのだが、身延線で結構酔っぱらってしまった為、自重。
桜えびのシーズンでは無い為、冷蔵されたものではあるが、臭みもなくおいしい桜えび。
レジの女性から神沢川酒造の場所を聞くと、徒歩10分くらいとの事。それならばと歩き出す。
言われた通りに歩いて行くと、やがて東海道の旧道に出る。
そして見えて来ました、神沢川酒造場の煙突。
パームツリーがあるのが、なんとなく正雪らしい。ワクワク。
・・・あれ?
・・・あれれ?
Σ( ̄□ ̄;)!!
なんか、以前にもこんな展開があったような・・・。
こういう予感はあった。まずひとつは日曜だという事。そして、東京で静岡酒のイベントがあったからだ(参加されているかは不明)。
ここは仕方なく正雪蔵の杉玉をカメラに収め、由比駅へ向かってとぼとぼ歩く。
途中で旧跡の由比本陣などがあり、かつてここが宿場町であった事を伺わせる。通り沿いの民家も、玄関を通ると右側に大きな座敷があり、左側の土間が奥まで通っているという、古い旅宿を思わせる家が数多い。由比の伝統的な間取りなのだろうか。ここはあきらかに歴史を今にとどめている街である。
時折、東海道線の向こうに見え隠れする海には、近づいている台風を思わせる高波が押し寄せていた。もう少しで東名高速へ届いてしまう勢いである。
神沢川酒造から由比駅まで1.7キロメートル。なんとか辿り着いた地酒星人。
次なる目的地・焼津を目指して、さらに西へ。
焼津といえば、言わずとしれた銘酒(こればかり)磯自慢の地元である。磯自慢酒造では一般の蔵見学などは受け入れていない事は承知していたが、ひと目蔵の姿を見たかったのと、前からの目標であった“焼津の浜で磯自慢”を実現したかったのである。
焼津駅に降り立ったのは、午後5時をまわった頃。
今度は正しく徒歩3分のホテルに落ち着き、しばし休息。やはり列車での昼酒と炎天下の徒歩がたたったのか、また頭痛がして来る。再びバファリン。
夜7時になった頃、夜の焼津の街へ。
まだ頭痛は収まっていなかったが、どうしても行きたい居酒屋があったのだ。
磯自慢全種類を揃えているという名店、「赤兵衛」である。
この赤兵衛が月曜定休である為、無理をして甲府泊で南下をして来たのだ。
ホテルからは徒歩15分くらいもあるだろうか。住宅街の中に赤兵衛はあった。
やっと辿り着きました赤兵衛。
しかし、知らぬ街の居酒屋にひとりで入るというのは躊躇するもので、さらに頭痛の追い打ちを受けている為、すぐに入る気になれない。
少し外から中を伺っていたが(怪しい男?)、中は見えない構造になっているようだ。こんな事をしていても埒があかないと思い、入店。
様々な民芸調飾りや酒の名前の札がかけられたカラフルでにぎやかな店内。
やはり台風の近づく日曜の夜だからか、客はぽつぽつとしか居ない。
ひとり旅の定席・カウンターに落ち着く。
漁港の街ではやはりこれでしょう、という事で刺身盛り合わせを注文。
さらに頭痛に良い気がして(根拠無し)、もずく酢を。
体調からいって一杯が限度かなと思い、なにか珍しい磯自慢をというと、ご主人が愛山の大吟醸を出して来てくれた。
これは以前酔ゐどれさんのブログで紹介されていたなと思い、グラスでいただく事に。
刺身盛り合わせ。
刺身はやはり新鮮。なんというか東京で食べるものよりも粘りがあるというか、モチモチっとした食感がある。
そして驚いたのがもずく酢。もずくって、本当はこんな味をしていたんだと思い、カルチャーショックを受ける。もずくはあまり好きではなかったが、このもずくは別物。とにかくプリプリとした食感が良く、磯の風味も感じられて絶品。もずくファンとなってしまった。
さて、磯自慢の愛山。
香りや味に酸味が感じられ、磯自慢としては少し変わった味か(体調のせいかもしれませんが)。
しかし、飲んでいる内に頭痛も収まって来て、もう一杯注文してみようと思う。
今度は違う静岡酒をと思い、國香の純米大吟醸をリクエスト。
以前に純米の原酒を飲んだ時はハードな印象があったが、今回の酒はフルーティー&スムージィ。
磯自慢の愛山よりも、こちらの方が磯自慢っぽく感じられた。
さらに旨い煮込みもいただいてから、ホテルへ帰る事に。
体調が良ければ葵天下も飲みたかったなあ・・・、小夜衣もあれば注文したのになあ・・・と思いつつ、来た道を戻る。
しかし漁港の街らしく、赤兵衛での話題も台風の事が多い。
おカミさんの情報では、掛川から先の東名高速が高波で通行止めになっているらしい・・・。
う〜ん。困った。
明日の予定を組み直す必要に迫られる地酒星人なのであった。
《明日につづく!》
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コメント
素晴らしい大作になってきましたね。
太田和彦、顔負けです。
私もこれから出かけますが、
とてもこうはいきません。
家族サービスも兼ねているので、
酒関連の所には余り行かないでしょうねぇ。
投稿: みみず | 2005/09/10 11:12
みみずさん、行ってらっしゃいませ〜。
>家族サービスも兼ねているので、
酒関連の所には余り行かないでしょうねぇ。
あ、家族(特に子供)が一緒だと無理でしょうねぇ。
私の旅も子供連れでは考えられませんでしたからね。
投稿: 地酒星人 | 2005/09/10 11:36
>・・・し、閉まっている。
>Σ( ̄□ ̄;)!!
>なんか、以前にもこんな展開があったような・・・。
事前にしっかり計画しましょう(笑)!
♪ど~する?アイ○ル~(爆)♪
まっ、よい酒よい肴が食べられたからよかったじゃあないですか!桜海老おいしそう!!
投稿: 桂自然 | 2005/09/10 15:27
予定外のトラブル(?)続きで大変そう。でも楽しそうな旅ですね!
桜海老のかき揚げせいろ、おいしそう!!(←お酒に合いそう♪)。体調がよくない時にもずく酢を頼む気持ちもわかります←それでも飲みたいんですよね~(~_~)。正雪の蔵がお休みだったのは残念でしたね~。そういえば、9月始めの東京での静岡のお酒のイベントには、私のお酒仲間も何人か行ってました。赤兵衛さんも魅力的な居酒屋さんですね!
投稿: えぬこ | 2005/09/10 18:46
赤兵衛ってよさそうですね。正雪だけじゃなく、醴泉の文字が惹かれます。
僕だったら、閉店まで居座りそう。
投稿: あつし | 2005/09/10 23:46
やはり愛山は、銘柄らしくない感じですよね〜?いつもの磯自慢を想像して飲むと、ちょっと物足りないかもしれませんね〜
私もみみずさん同様、太田さんを想像してしまいました(笑)
投稿: 酔ゐどれ | 2005/09/10 23:53
酒蔵は残念でしたが、いい居酒屋で飲めたのだから良しとしましょうよ。
あーー、「桜海老」美味しそ~。天ぷらも大きくていいな~。
「葵天下」があったなら、飲んで欲しかったなぁ。静岡酒の中では、(多分)あまり名は通っていませんが、美味しいお酒でした。
投稿: 山輝亭 | 2005/09/11 07:35
《 桂自然さん 》
>事前にしっかり計画しましょう(笑)!
はい、私の旅はそのひと言に尽きます。
わかってるんです。わかってるんだけど、とりあえず行っちゃうんですよね〜。
仕事とかだと結構慎重な方なんですけどね〜。
《 えぬこさん 》
>体調がよくない時にもずく酢を頼む気持ちもわかります
あ、わかります?なんとなくサッパリするような気がして。
血行も良くなりそうですよね?
4日目の記事を読んでいただけますとわかりますが、正雪蔵にはリベンジしてまいりました!
投稿: 地酒星人 | 2005/09/11 08:06
《 あつしさん 》
>醴泉の文字が惹かれます。
呑んだ事がないんですが、良い酒ですか〜?覚えておきます!
>僕だったら、閉店まで居座りそう。
私も体調が良ければ、そのクチだったんですけどね〜。残念でした。
《 酔ゐどれさん 》
>やはり愛山は、銘柄らしくない感じですよね〜?
やっぱりそうですかね?國香にお株を奪われていた感じでした〜。
>太田さんを想像してしまいました(笑)
ははは、今度ヒゲをはやして旅をしてみようかな(笑)。
《 山輝亭さん 》
>「葵天下」があったなら、飲んで欲しかったなぁ。
そう言われてしまうと、呑まなかったのを後悔します(涙)。
國香もそうですが、なかなか置いてある店が無いですからね〜。
焼津には、またいつか行こうと思っています(しつこい?)。
投稿: 地酒星人 | 2005/09/11 08:13
「正雪」の望月正隆専務は、今年、県内の蔵元の青年部に該当する「静酉会」の会長です。んで、静岡県地酒まつりは静酉会の主催なので、当然、東京に来られてました。専務だけでなく、弟さん(2人)も来てましたよん。蔵は完全に空っぽだったと思います。あ、同じ町内の「英君」も同様ですね。
それから「國香」純米大吟醸をお飲みいただき感謝です。口の悪い酒屋にいわせると「國香は poor mans' 磯自慢」なのです(笑) 「葵天下」は地元でもホントに蔵の近辺以外では近隣の「開運」「千寿」に押されて滅多に見ない銘柄なので、飲み屋でめぐり合ったらめっけもん、だと思ってください。
製造量では國香より多いのに、國香より珍しいんですよねぇ‥‥ 不思議だ。
投稿: kshimz | 2005/09/12 01:37
>蔵は完全に空っぽだったと思います。
やはりそうだったんですね。英君にも行こうと思わず良かったです(苦笑)。
>口の悪い酒屋にいわせると「國香は poor mans' 磯自慢」なのです
ははは、なるほど。でも、本当に旨かったです。
そうですか〜、葵天下は呑んでおきたかったですね。
様々な情報、ありがとうございました。
投稿: 地酒星人 | 2005/09/12 05:56