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2005/07/27

追悼 杉浦日向子さん

杉浦日向子さんが、亡くなった。
46歳。早すぎる死である。
杉浦さんはしばらく前に漫画家を“隠居”されていたが、まだ20代の頃に描かれた一編が地酒星人は大好きである。
幕末の上野・彰義隊を描いた「合葬(がっそう)」。

gassoh鳥羽伏見で幕軍が敗退し、薩長の軍が江戸に進駐をして来た当時の物語である。
最後の将軍・徳川慶喜はすでに水戸へ退き謹慎をしていたが、江戸にはまだかなりの直参旗本が残っている。特に旗本の次男・三男は行き場を無くしてしまったのと、幕府直参の意地で徒党を組み、寛永寺のある上野の山に集結を始める。
やがて彰義隊を名乗る彼らは新政府軍と反目し、世に言う上野戦争が引き起こされる。

戦い自体は長州の大村益次郎の天才的な作戦などを持って、およそ半日で終結するのだが、戦いの前の江戸の不穏な空気、行き場の無い若者のあせりや怒り、迷いを描いて、時代ものの範疇に収まらない青春群像劇として秀でている。
嫡男以外の旗本の息子の弱い立場などが実感としてわかるように描かれており、さすがは杉浦さんである。
優れているのは時代考証だけでは無く、あまり語られない事だが、彼女はドラマ作家としても非凡な才能を持っていた事がわかる。
様々なエピソードを丹念に紡いだ後の、最後の上野戦争の描写などは、映画「タイタニック」のクライマックスにも匹敵するような息詰まる展開である。
燃え上がる寛永寺から鳳凰が飛び立つ幻想的なシーンは、ひとつの時代の終わりを象徴的に描き、心を震わせる(実は鳳凰ではなく見世物小屋から逃げて来た孔雀なのだが)。
(新選組好きなので、どうしても佐幕派に感情移入してしまう)

「江戸時代は毎日が日曜日。明治になって文明開化などと言っているけれど、それは単に月曜日が来ただけ。」
杉浦さんは、よくこんな事をおっしゃっていた。その後の日本の歴史を考えた時、まさに至言である。
世界史上に稀な江戸という文化都市の葬いを、杉浦さんは彰義隊の壊滅を通して描きたかったのではないだろうか。それが、合葬というタイトルにも現れているのであろう。

杉浦さん、おばあちゃんになったあなたの江戸話が聞きたかった。大の蕎麦通、そして日本酒好きだった杉浦さん。蕎麦屋での過ごし方など、普通は池波正太郎さんの文章などから学ぶものだろうが、私はあなたの文章から学びました。ご冥福をお祈りいたします。

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コメント

国営放送の「お江戸でござる」母につきあって見ていました。
いつのまにやら、人が代わった、と思ったら、ご病気だったのですね。

私の友人も去年の夏、癌で亡くなりました、杉浦さんと同世代の人でした。

最近、よくその友人のことを思い出しています。

でも、まだ逝ってしまうには、若過ぎたなあ・・・としみじみ思います。

杉浦さんのご冥福をお祈りします。

投稿: hanna | 2005/07/27 14:01

それこそ江戸時代であれば、“隠居”後の50近くの死であれば珍しい事ではなかったと思いますが、現代ではやはり早過ぎますよね。
杉浦さんも、hannaさんのご友人も、若いゆえに病気の進行が早かったのでしょうか。

それでも彼女の創作活動を思えば、充実した一生であったとは思いますが・・・。

投稿: 地酒星人 | 2005/07/27 17:26

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