センセイの鞄。
川上弘美の小説が好きだ。
今までにそんなに数を読んでいるわけではないし、すべてを読破してみたいなどというマニアックな欲求はないのだが、彼女の紡ぎ出す、不思議で切なくて虚無的な作品世界が肌に合う。
そう、何が良いのかよくわからないのだが、まさに「肌に合う」といった表現がぴったり来る。読者層としては男性は少ないのだろうか?どうなんだろう。
最近読んだのが文庫になった「センセイの鞄」。
30代後半・独身のツキコさんが30歳年の離れたかつての恩師・センセイと居酒屋で再会し、ゆるやかに恋におちて行くのを淡々とした筆致(この作家はいつもそうだが)で描いた作品である。
川上弘美の描く作品は、浮き世の生臭い「勝ち組・負け組」といった世知辛い観念から全く切り離された世界を描き出し、我々に癒しを与えてくれているのではないだろうか。作品を読むこと自体がセラピーとなっている気がする。そしてひじょうにエロい。直接的な性描写を描いているわけではないのだが。なんでだろう。40近い女と70ほどの男の話なのだが。これもまた不思議な魅力である。
ふたりが逢瀬を重ねる居酒屋がまた良い。世田谷あたりだろうか。郊外の小さな駅からほど近い何の変哲もない店なのだが、さりげなく落ち着いた風情でツキコさんとセンセイに良く似合っている(なんか見て来たような事を言ってますが)。ある時は冷やで、ある時は燗をつけて、ふたりは日本酒を酌み交わす。ふたりとも澤乃井が好きという設定だ。おそらく澤乃井・大辛口本醸造だろう(独断)。
この「センセイの鞄」、WOWWOWでドラマ化されたようだ。ツキコさんが小泉今日子、センセイが柄本明だったそうだが、小泉今日子は良いとして柄本明はちょっとイメージが違うかな。でも見たい。
この川上弘美に対する肌の合い方に似ている人がいる。中学生の頃から好きな谷山浩子である。ふたりの作品世界には共通したものを感じる。川上弘美の「神様」は以前TOKYOFMでラジオドラマ化されたようだが、主人公の声と主題歌を担当したのが谷山浩子であった(残念ながら未聴)。(ドラマで使用された楽曲はアルバム「宇宙の子供」で聞く事が出来る。)
やはり共通点を見いだす人はいるのだなあ、と感慨に耽る。谷山浩子については、また後日。
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コメント
地酒星人さん
はじめまして。みいねこともうします。
川上弘美さんわたしも大好きで、なかでも「センセイの鞄」は最高傑作だと思います。他の作品も独特のテンションの低さがあって、そこが肌に合うというか、まさにおっしゃるとおり「癒される」感じがします。
ところでわたしも「神様」を読んだときに谷山浩子さんを思い出したんですよ!
なので、こちらで「谷山浩子」の文字を見たときには驚いてしまいました。それでついコメントまで差し上げたしだいです。
萩尾望都さんも昔よくよみました。「ポーの一族」「トーマの心臓」は名作だと思います。
それではながながと失礼いたしました。
投稿: みいねこ | 2006/09/09 14:23
みいねこさん、はじめまして。
コメントありがとうございます。
川上弘美さんと谷山さんの共通項、共感してくださる方がいて嬉しいです。
>独特のテンションの低さ
↑そうなのですよね。その文字に身をまかせていると癒される感じというか・・・。
川上弘美、谷山浩子、萩尾望都。一見違うようでも、すごく共通したものが底辺に流れている気がします。
みいねこさんのようなコメントをいただけると、ブログやっていて良かったなぁ、と思いますね。
投稿: 地酒星人 | 2006/09/09 23:32
3年近く前のブログにコメントをさせていただきます。
コメント&トラバありがとうございました。
そして、僕も榎本明さんだとちょっとイメージが違うのです(笑)
(もう少し若き日の三國錬太郎でした)
日本酒、いいですねえ。
センセイの呑み方を真似たいのです。
そして、他の川上弘美作品だと「真鶴」には引き込まれたなあ・・・いつの間にかあんな独特なワールドを築く人になってしまってたんですねえ
投稿: のむりん | 2008/03/30 02:06
《のむりんさん》
こちらこそ、古い記事にコメントありがとうございます(^^)。
“センセイ”みたいにお酒、飲みたいです。
「真鶴」は読んでいないんです。
是非読まねば!
投稿: 地酒星人 | 2008/03/31 08:04
聴けるみたいです。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm1122616
投稿: とおりすかり | 2009/01/04 01:06
《とおりすがり様》
貴重な情報、ありがとうございます!
・・と思ったのですが、制作者サイドからの申請により削除されてしまっているようです(泣)。
う〜ん、残念。
有料でも良いので、是非とも聴けるようにして欲しいものです〜。
投稿: 地酒星人 | 2009/01/04 23:30